「ゲイは男性を襲う」根強い偏見…LGBT当事者に聞く、多様性とはなにか

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日々、メディアで見かける「多様性」という言葉。これからの時代は多様性を認めることが大事なのだ……ということは伝わってきますが、そもそも「多様性を認めている社会」とはどういうものなのでしょうか?

生きていく上で、不用意に誰かを傷つけてしまったり、過剰に我慢させたりするのは避けたいですよね。自分や大切な人がその対象になったら……と考えると、切実なこととして感じられます。

そこで今回は、企業向けにLGBT研修を行う株式会社Letibeeの代表取締役・榎本悠里香さんにインタビュー。前編では、身近にLGBTの人がいたらどう対応すべきかなどを伺いました。

後編では、行政が同性婚を認める意義や、多様性を受け入れている社会とはどういうものなのかをお話いただきます。

【前編はこちら】身近にLGBTの人がいたら…「言っちゃダメなこと」はある?当事者に聞いた

 

「ゲイは男性を襲うんでしょ?」根強い偏見のワケ

——今、社会では「多様性を受け入れよう」という動きが活発になっているものの、まだまだ人々の意識が変わったとは言えないですよね。例えば昨年8月には、「上司や同僚がLGBTだったら嫌だ」と思う人が35%、という調査結果も発表されています(参照)。

榎本:この調査で「抵抗を感じる人の割合は、身近に LGBT がいない人では身近にいる人の約2倍」という結果も出ていることから考えると、「よくわからない」存在なのではないかと思います。イメージを作るための知っている母数が少ないと、たとえばメディアで見た情報だけで「ゲイは誰かれかまわず男を襲うんでしょ」というイメージになったりする。

——「襲われたりするんでしょ」みたいな偏見は根強いですよね。テレビやネットでは「ホモネタ」もよく見られます。これについてはどうお考えですか。

榎本:ゲイキャラを作ることで居場所ができて救われた、という人もいます。ただ、ゲイをネタにしたりキャラ作りに使ったりするのは、そのくらいしないと生き延びられなかった、本人にとってサバイバル術なのではないかという見方もありますし、ネタにされることで追い詰められる人もいます。

笑いは、時代によってアップデートされていきますよね。たとえば何年か前に、テレビ番組でハリセンボンの近藤春菜さんと歌手のアリアナ・グランデが対面したとき、春菜さんが持ちネタとして「(私は)シュレックじゃねえよ!」と言ったら、アリアナ・グランデは真面目に「あなたはシュレックに似ていないし、すごくきれいよ」と返答した。今の日本の“笑いどころ”が通じなかったんです。

これと同じように、あらためて冷静に考えたらべつにおもしろくないことって、たくさんあると思うんです。LGBTに限らず、容姿を嘲るネタとか。ネットがなく情報発信が一方通行だった頃と比べて、今はSNSで「これって本当におもしろいのか?」と意見が交わすこともできるから、人々の価値観も変わっていくんじゃないでしょうか。

 

「個人的な好き嫌い」を抜きにした議論を

——「周りの人がLGBTだったら嫌だ」という話に戻りますが、千葉の熊谷俊人市長が『性的多様性についてもっともらしい理屈(多くは整合性が取れていません)を用いるのではなく、単純に「生理的にダメ」「気持ちが整理できない」と言えば良いと思いますし、それは別に責められるべきものではありません』とTwitterに投稿し、物議を醸したことがありました(参照)。

「生理的嫌悪を表明すべし」ということではなく、「性的多様性を話し合う際に、嫌悪感を抱く方の意見を抑制せず、その上で課題を抱える方への理解と権利擁護を促す必要がある」という趣旨の発言だそうです。榎本さんはどう思われますか?

榎本:LGBTに限らず、何かが嫌いだという人は、いなくならないですよね。でも今は、国や法律も影響して「嫌だと感じるのは“普通のこと”なんだ」と思ってしまっている人もいると思う。

だからこそ、個人的な好き嫌いは置いておいて、感情論ではなくて、一人の人間としてどのくらい権利を持つべきなのかを議論をしようということが熊谷市長は言いたかったのだと理解しています。「私はあの人が嫌いだ。でも、あの人が人権を守られずに生きていくのはどうかと思う」というふうに。

 

行政が同性をパートナーとして認める意義は何か?

——榎本さんが所長をつとめる「LGBTマーケティングラボ」の調査では、同性婚を認めたほうがいいと思うLGBT非当事者は約80%という結果が出ていますね(参照)。結婚ができるようになると、緊急時に手術同意書にサインすることができるようになるなどのメリットがあります。このほかに、行政が認めることの必要性は何でしょうか。

榎本:行政の決定事項に国民が影響を受けることってありますよね。ドナルド・トランプが大統領になったことで、ヘイトクライムの件数が一気に上がったとか。これはネガティブな例ですが、ポジティブなことでも同様だと思います。

例えば「LGBTって病気なんでしょ」「変態なんでしょ」といった偏見にも、「いや、人権の問題です。国も認めているんですよ」と伝えることができる。言いたくても言えなかった人にとっても大きな後ろ盾ができたように感じられるんじゃないかなと思います。

 

(研修の様子)

婚姻の仕組み改革はLGBT以外にも役立つ

——同性婚については、どう考えていますか?

榎本:近年、結婚というものへの解釈が変わってきて、子どもを産まない生き方や、夫婦別性を望む人たちも増えている。生き方の多様性を認める意味を込めて、LGBTではない人にとっても「それ使える! 待っていた!」と思える仕組みにアップデートしたらいいんじゃないかと考えています。

——「女友だちと一緒に子どもを育てる」とかも可能になると、生きやすい人が増えそうですね。

榎本:今は、世の中の仕組みが男女を前提にしていますよね。仕組みを少し柔軟にしたら、今まで“男だから、女だから”という枠組みの中だけで答えを出していた人たちが、新しい答えを出せるようになるかもしれないし、そっちのほうが幸せかもしれない。

制度によって選択肢を増やすことで、人間の価値観も人生も変わってくると思います。

 

他人を意識し、尊重するのは疲れる。でも……

——「多様性」は今後、社会的にもビジネス的にもキーワードになっていくと思いますが、「多様性を受け入れている社会」とはどういうものなのでしょうか。言葉だけが先行して、イメージが共有されていない気がするんです。

榎本:「マジョリティとマイノリティの人がいる」という意識ではなく、「人はひとりひとり違う性質を持っているものだ」という意識が広まり、その上で、みんなで手を取り合ってやっていける状態だと思います。

多様性を受け入れるということは、自分とは違う人を認めて生きていくということ。ある人にとっては、これまでより生きづらい社会になったと感じるものになるかもしれない。

それでも、今の社会は、誰かの我慢の上に成り立ってきたものだから、常に「今よりいい」を考えていかないといけない、留まりたいと思っても時代の流れもある。他人を尊重するのは疲れると思います。でもそれは、めぐり巡って自分を尊重することにもつながるんじゃないでしょうか。

 

 

【画像】

※ Syda Productions / PIXTA(ピクスタ)

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